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2004/10/14

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団

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今年の9月にやっと発売されたJKローリング作のシリーズ第5弾です。

子供の文学離れが甚だしい昨今、情操教育としての材料には打って付けの作品だと思います。
文章量が少ない訳ではありませんが一気に読み通したくなる力を持っていますし、文字を装飾する事によって視覚的な効果を作り出すなど色々な工夫もなされています。

作品の構成は厳密ではない推理小説の態を取っています。導入、伏線、謎、事件、説明と云うのが全作品の変わらない大まかな流れです。このサスペンスフルな構成が読み手を飽きさせない理由でしょう。子供だけならず大人にも絶大な人気を誇っている事にも頷けます。

しかし今回の「不死鳥の騎士団」は失敗作ではないかと思われます。それが云い過ぎだとしても、今迄の作品では上手く機能していた構成が、マンネリ化もあってかギクシャクとした不協和音を立てているような感が拭えません。
それと方々でよく云われていますが、今回のハリーの性格には棘があります。全てがマイナス志向の主人公と云うのも児童書と云う位置付けの本書には不釣り合いに思えます。思春期だとする設定らしいのですが、どうも釈然としませんね。心理描写も中途半端ですしどちらかと云うと作者の苛立ちを感じられます。

それよりも気になるのはやはり物語の構成です。起承転結となるべき筈が、起承承結となっているのです。読んだ方なら分かると思うのですが、1300ページもあるうちのラスト150ページでしか事件が起こっていないのです。しかも突発的な印象がある為か最後に味わえる筈のカタルシスも感じられません。そうして長々としたダンブルドア校長の謎解きが始まるのです。

ハリー・ポッターシリーズは全7巻で終了する事が予定されていますので、この5巻は最後に繋げる為の難しい位置にある事は想像出来ます。その為にハリーの性格ともども無理が出てしまったのではないかと云うのが私の意見なのですが間違っているでしょうか。
このような長大な物語ともなると場合として作者の力量が追い付いて行かない事もあると考えられます。他のメディアで云うと「ドラゴンクエスト」などが良い例でしょう。どうしてもシリーズの途中などで破綻が生じてしまうものなのです。余談ではあるのですが、潔癖な芥川龍之介が長編を諦めた理由もそこにある思います。

しかし、シリーズが終了した時に「不死鳥の騎士団」の持つ意味が判然とする場合もあると思うのです。作者としてあの時点で矯正しなければこの大円団には結び付けなかったのだな…と云う意味なのですが。

私もハリーポッターシリーズの一ファンとして早く続編が読みたいと云うのもまた正直な気持ちです。物語の流れから察すると読後感の悪いのは「不死鳥の騎士団」だけだと思います。以前の4冊は勿論の事ここから繋がる2冊は、きっと読者を童心に連れ戻してくれる名著として語り継がれていく事でしょう。
未読の方はこれだけ夢中にさせてくれる小説なのにリアルタイムで読める可能性を自ら逃している事になりまので、早めに読んでしまう事をお奨めします。第6巻がなかなか出版されない事を翻訳者のせいにしてやきもきしてしまう事を請け合います。

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