ゼビウス(1)
1983年にナムコから発表されたビデオゲームです。
語るまでもなく有名なゲーム界の最高傑作「ゼビウス」です。
本作を初めて見た時の感動は一生忘れないでしょう。それまでに見た事のなかった銀色に光り輝くキャラクターは本物の立体物かと思えました。色彩の豊かな背景がゆっくりと流れて行くさまは、まさしく物語を綴った絵巻物を想起させます。そして神秘的な音楽に全ての人が魅了されたのです。
ゲーム性も独特でした。先ずボタンが2つある事に驚き戸惑いました。対空兵器であるザッパーが連射出来る爽快感は格別で、砕け散る敵は芸術そのものです。対地兵器ブラスターの破壊音はコンパネを通して腕を刺激するかのような感覚を提供してくれます。
隠れキャラクター「ソル」の出現には新たな謎を問い掛けられ、スペシャルフラッグの存在には驚喜されられました。
大量の弾を出す敵地上物ガルデロータには諦念を覚え、移動する地上物ドモグラムには焦眉を募らせられます。
破壊不能な空中物バキュラには皆が皆無駄な闘いを挑みました。
一時の静寂を破り轟音とともに現れる巨大要塞「アンドアジェネシス」の衝撃度を超えるものは以前もそれ以降も味わった事がありません。
長い海を過ぎたあとにナスカの地上絵上空を飛ぶ感覚の如何に神秘的だった事か……。
語り尽くせない程の印象と想い出がゼビウスには詰まっています。これは当時リアルタイムで本作を体験した方みな共通の意見だと思われます。
縦スクロールシューティングの原本となったゼビウスですが、斬新なゲームシステムはもとより、業界の内外に与えた影響の最も強い部分は世界観の構築にあったと云えます。
ゲームのプレイ中には説明らしい説明が用意されていないにも関わらず、大きな物語性を想起させて我々に提供するのです。このようなゲームは以後も現れていません。
何がそう思わせてくれるのかと云えば、統一感の一語に集約されるのではないでしょうか。
本作がデビュー作となった作者の遠藤雅伸さんが考えた「ゼビウス」と云う世界のルールが、そのままゲーム内に色濃く投影されていて逸脱を許さないのだと思います。氏が本作を作る際に「フォードラウト伝説」と云うゼビウス世界の小説を著した事は有名ですが、それを読まずとも物語性を感じる事が出来ると云う事実は刮目するに値します。如何に作者が物語を自ら把握していて、如何にゲームと云う平面に落とし込めたかの証明であると思います。
云って見れば小説の作り方と酷似しています。特に矛盾の許されない純文学の作劇法に近いと云えるでしょう。面白ければ或る程度かそれ以上の過失が許される文学はエンターテイメントと呼ばれています。それに対して純文学は一行一句疎かに出来ない緊張を作者に強いります。推理小説も同様の手法により成立するのですが、発想の転換を強要出来る部分で嘘を公然と約束されている為に、統一感の脅迫は薄いものとなっていると云えます。
小説を書く行為とは脳内に描かれた完成図を目指してピースの1つ1つを嵌めていく立体パズルの形式に例える事が出来ると思います。他の芸術もこのような方法だと考えるのですが、ゼビウスの場合は紙の上で既に完成型があったと思われるので表現としてこれが一番近いのではないでしょうか。
ゼビウスを見ると難解なパズルが作者の計算した形に隙間なく構成され完成している印象を受けます。グラフィックの統一感、自機ソルバルウの性能と敵キャラクターのアルゴリズム、故意に節を付けなかったと思われるBGM……全てが破綻なく纏められているのです。それに加えてゲーム性と云う言葉では説明し難い空気感を持っているのが完成されている証拠とも取れるのではないでしょうか。
作者である遠藤さんはゼビウスの事なら全て矛盾なく説明し答える事が出来ると発言している事からも、計算の把握が確実にあったと頷けます。
ゼビウスはゲームとしてのシステムも斬新であり優れていた為、売上的に見ても空前を絶する実績を作りました。以後、各ビデオゲームメーカーはこぞって亜流発展させた縦スクロールシューティング物を市場に投入して行きます。しかし、ゼビウスの本質まで理解出来なかったクリエーターの作った亜流ゲーム達が本家を超える事は遂に有り得ませんでした。
光源を設定したキャラクターを作る、物語を外付けする、キャラに名前を付ける、隠れキャラを入れる、巨大ボスを考える、自機の前方に照準を付ける……この程度の浅い認識からしか生じて来ない3流エンターテイメント作品に、不朽の名作たるゼビウスの価値の下がる心配が訪れる筈もなかったのは当然と云えるでしょう。
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コメント
バキュラは確か百とか千とか撃つと破壊できると、僕のまわりでは言われてました。誰もが疑いを持っていませんでしたが誰も破壊できることができずに・・・
今思うとあれ以来みんなの心が荒んできたと思います。
任天堂のベースボールをやれば誰もがジョイスティックピンに針金を刺し、ゴルフをやれば画面の下に打つ。
そうやって悪事に身を染めていったものです。
誰だそんなデマを流したのは?「コーラで洗えば大丈夫っていったじゃないか~」
投稿: dumi@ゆきひと | 2004/11/21 04:43
バキュラは256発で破壊出来ると云われていましたね。
ベースボールの禁断の秘技は懐かしいなあ。誰が思い付いたものなんだ廊下は静かにアルカイダ。
禁断のコーラを試した友達もいましたよ。確か20回以上シェイクしなければいけなかった筈です。効果の程は……この間ベイブレードを息子さんに買っている彼に会いました。
あの頃は「毎度おさわがせします」がみんなの教科書でしたね。
私はと云えば「高校性夫婦」が好きでしたけど。
投稿: 管理人ひとぴー | 2004/11/21 08:45