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2004/11/04

イシターの復活

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1986年にナムコから発表されたビデオゲームです。

「ドルアーガの搭」の続編で遠藤雅伸さんが手掛けた4本目の作品となります。
前作で囚われの身となっていた恋人カイを助けた黄金の騎士ギルが塔を脱出する物語です。

しかし今回の主役は魔法使いカイであり、ギルは専らサポートする役目を担っています。操作系統がそれまでのゲームにはない独特なものとなっていて、2本のレバーと2つのボタンでカイとギルを同時に操らなければいけません。
8方向レバー、魔法選択ボタン、魔法発射ボタン、がカイに割り振られており、ギルは8方向レバー1本のみで操作します。
基本はカイの単独行動となっていますので、邪魔になるギルを画面外に放って置いて、必要な時にだけ「コールギル」の魔法で呼び出すと云うのが攻略法です。しかしどちらか片方でも死んでしまうとゲームオーバーとなってしまいます。

本作は継続プレイする事を前提として制作されています。RPG的な概念が導入してあり、敵を倒す事でカイとギルが成長して行くのです。しかしゲーム中にはレベルアップせず、ゲームオーバー後にパスワードが表示され、次回それを入力する事で前回プレイ分の経験値が反映されると云うシステムです。
これは永久プレイ防止の策であり良く考えられた仕組みだと思います。
ナムコは本作のパスワードシステムで特許も取得しています。

ゲーム内容は前作と同様で、鍵を拾い扉に入ると1部屋クリアとなります。ただ一つの面に複数の鍵と扉が存在しており、それぞれに対応した鍵でなければ扉が開きません。そして扉の行き先も全て違う部屋へと繋がっています。この複雑な部屋の迷路構成が本作の一番難しい謎となっています。

「ドルアーガの塔」の続編と云う事もあり一部に爆発的な人気を博した本作だったのですが、様々な問題も内包されていた為にゲームセンターからは早々と消滅してしまいました。

一番の理由はプレイ時間の長さにあったと思います。成長し切ったキャラクターを持っていればクリアしようとしない限り何時間でも遊べたのが問題ですね。ギルの体力はおろかタイムまで任意に回復出来る本作ではゲームオーバーになる要因が見付けられません。カイは敵に触れただけで死んでしまうのですが、プロテクションの魔法を無尽蔵に重ねる事でこれも回避出来ます。
部屋の繋がりが迷路状になっているので、行きつ戻りつして延々と遊ぶ事も可能です。

またパスワードが画面に表示されるのを利用して、他人の育てたキャラクターを盗む行為も多発しました。酷いところだと皆が皆同じパスワードを使っているゲームセンターもあった筈です。

ゲーム的に見ても単調な感があり一般ゲーマーへ訴え掛ける面白さが欠落していました。

しかし個人的にはかなり遊び込んだ作品です。当時は風営法が施行されたばかりの時代でしたが、24時間営業のコンビニなどにビデオゲームが置いてある事もありました。特に参入したばかりのローソンはナムコと提携していたようで、大抵の店に2台ほどテーブル筐体が設置されていました。
夜中にこっそりと家を抜け出して、朝方まで「イシターの復活」を遊び込むと云う日々を一ヶ月近く続けていたと思います。今となっては懐かしい思い出です。

最後に「イシターの復活」の最も優れている部分を記して置きます。
それはグラフィックの統一性です。当時ハードの表現力が格段に上がって行くと同時に、グラフィックセンスの崩壊が始まりました。無意味に描き込まれた背景、奇抜と云うよりは下品なデカキャラ、色数を使い過ぎたが為に意味を為さなくなったゲーム画面……などなど、それまでのゲームにはあったゲームとしての美しさが無視されるようになって行ったのです。
他社はもとより王者ナムコも例外ではありませんでした。「源平討魔伝」を見た時には全てが終わったと感じたほどです。
「イシターの復活」では画面内に存在する全てのものがゲーム画面に収まる事を想定してデザインされているように見えます。設定画に尽力する無意味を省いて、ゲーム画面に映えるトータルデザインを追求していると云っても良いでしょう。
当たり前のように思われるかも知れませんが、これが実際に完成されているゲームは現在までにも殆ど存在していません。これは主観の問題ではなく完成度の問題です。

また無駄だと思われる中間のグラフィックが用意されていないのも特記すべき部分だと考えます。具体的には敵にダメージを与えた絵(効果)、また敵を倒した絵などが用意されていません。全て効果音とソフト内の処理で賄われています。これは白黒はっきりした素晴らしい演出とも云えるでしょう。
作者である遠藤さんのポリシーを感じられます。

どちらかと云うと闇歴史に葬られている感のある「イシターの復活」ですが、斬新であったパスワードシステム以上に語られなければならない美点を持っている事実にも気付いて欲しいと思います。

遠藤さんは本作の制作中に独立して「ゲームスタジオ」を設立しました。これ以降氏のビデオゲームは作られていません。家庭用の受動的なハードシステムでは氏の独創性も発揮出来なかったようで、話題となるような作品も出現しませんでした。現在は携帯コンテンツやカードゲームの作成をなさっているそうですが、業界の誇る有能なセンスを小さな世界に閉じ込めている現状に憤りを感じてしまいます。ここら辺の問題もどうにか出来ないものなのでしょうか。

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