バーチャファイター(1)
1993年にセガから発表されたビデオゲームです。
現在ではポリゴン格闘物の草分けとして名作との評価を欲しいままにしている本作なのですが、ゲームセンターに登場した当時の評価が必ずしも高かった訳ではありません。
3Dで描かれた人間から新しい印象を受けはしたもののゲームとしては未完成に近い作品だと見られていたと思います。
美術面の評価が高い事でも有名ですが、これにしても目新しさ以外の好印象を受けた人は少ないと思います。個人的な第一印象は「地味なうえに恰好悪い…」でした。特にキャラクター造形のセンスのなさには辟易した程です。
またキャラクターのネーミングもステレオ化されていた為に格好悪さを助長していた感があります。しかし、これはバーチャファイターと云う架空ゲームとしての意味を如実に表している部分でしたので、制作者の意図したものであったと思われます。
プロレスラー→筋肉→千代の富士→ウルフ
このような簡単な連想からキャラクターの具体性を名前に込めて呈示する手法と云えるでしょう。
操作システムはストリートファイターⅡからの脱却を図る為に独自なものとなっています。
先ずボタンがガード、パンチ、キックと振り分けられている事にプレイヤーは戸惑いました。ストⅡ以降の格闘物はレバーを自機の向きとは逆方向に入れる事でガードするシステムが取られていたので、ボタンでガードする事には抵抗があり慣れるまでに随分と労力を使わされたのです。
しかし、最終的にはこちらのシステムの方が操作ミスの少ない考えられたものだと感じました。
また、この操作システムはストⅡとの差別化を図るのとは別の意味を持っているとも考えられます。
キャラクターのネーミングと同様に操作方法までステレオ化させようとしたのではないかと云う事です。ガード、パンチ、キックを分離したものと見なし、感覚に訴える事でバーチャルを感じさせようとしたと云うのが私の持論です。
音響面でも面白い実験が為されています。BGMは特に特記する事もないのですが、効果音に新しい試みを見て取れます。
対人格闘には凡そ使用されないであろう音を使用しているのがそれです。カウンターダメージを与えた時の硬質な効果音は交通事故を想起させますし、回し蹴りの際には飛行機のジェット音にも似た効果音が鳴り響きます。これは非常に斬新な演出でした。大袈裟な演出は印象を全てステレオ化する為の作戦とも云えるでしょう。
以上のように本作にはバーチャルを建前としたステレオ化(割り切り)が随所に見て取れます。初めてフルホリゴンを使用した格闘ゲームと云う紹介は、上っ張りだけに騙された安易な評価に過ぎないでしょう。
ポリゴンを使用したが為の制約を全てのシステムに関連させて表現として完成させた……これがバーチャファイターを評価する際の正しい表現だと思います。
この割り切りから生じたドライな肌触りが都会的な印象を強くして社会的なブームとまで盛り上がったのではないでしょうか。当初に受けた未完成の印象とゲーム性の低さはバーチャファイターと云う作品の本質だったとも云えます。
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