ハルモニオデオン
1989年に発表された遊佐未森さんの3rdアルバムです。
前年に1stアルバム「瞳水晶」でデビューした彼女は、同年に続けて2ndアルバム「空耳の丘」をリリースします。
1stではまだ独特な歌声を持つ不思議アイドル的な扱いであったと思うのですが、2ndから叙情的な世界観を確立し以降の作風へと続いて行きます。
そして発表された3rdアルバム「ハルモニオデオン」は初期の遊佐未森が持つ郷愁感を前面に掲げた名作となりました。
私は邦楽を殆ど聞かない質なのですが、本作だけは購入以後十数年間ずっと飽かずに聞き続けています。
邦楽を聞かない理由はその歌詞にあります。私たちが日常必然として耳に入れ口にしている日本語ですから、その意味が頭に入り過ぎてしまうのです。
私が音楽CDを掛けるのは曲が聞きたいのであって歌詞を知りたいからではありません。素晴らしい詩を感じたいのであれば梶井基次郎や三好達治を読めば良いと思います。良い曲を感じたいのであればクラシックを聞けば事足ります。
曲に乗せなければならない歌詞には制限から来る限界が付随して消えません。そうであるならば定型句の羅列と化した邦楽の歌詞を楽しめる理由は見あたらなくなってしまいます。
その点洋楽は私が無学である事から漠然とした内容しか把握出来ない為、或る程度純粋に曲を聴く事が出来る訳です。もちろん洋楽にも歌詞が乗っている以上は定型句が耳障りに感じる事もあります。しかし判然と意味の理解出来ない負がメロディとして受け流してもくれます。
また現在の邦楽はビートルズ以降のポップスを参考として成立している為に、メロと日本語の相性が甚だ悪い事も聴き難い要因となっていると思います。8ビート16ビートに日本語は上手く乗らないものと認識しててるからです。
しかし曲と詩が一体となった時、1+1が通常の答え2ではなく、3や5や10に変化する事実も認めています。
ハルモニオデオンはまさしくそれを地で行く邦楽アルバムだと思います。
遊佐未森さんの優しい歌声と外間隆史氏の諦念を伴った切ない曲調、工藤順子さんの懐かしさを感じさせる日本語、これが三位一体となり完成した稀有な名作となっています。あまり評価される事はありませんが編曲アレンジ面の完成度もかなり高いと云えます。
能く云われるように宮沢賢治の世界観を持った邦楽だと思っていただければ分かり易いかも知れません(実際はちょっと違いのですが)。または矢野顕子のファンタジー版とも呼べるでしょうか。ケイトブッシュの影響もボーカルスタイルやコーラスに現れていると思います。
人によっては鼻にかかった高音ボーカルとファルセットに嫌悪感を抱くかも知れませんが、郷愁感を煽る癒し系音楽を求める方や、心に平静をもたらしたいと考える忙しい現代人に強くお奨めしたい作品となっていますよ。
遊佐未森さんは仙台の出身で地元アーケード街のテーマソングも歌っておられます。中央通りを歩いている時にその曲が流れると何だかそれだけで幸せな気分に浸れてしまいます。
余談ですが氏のお父さんは地元高校の先生で、その高校に通っていた私の同級生は無理矢理デビューシングルを買わされたそうです。
友人に誘われてコンサートを見に行った事でファンになった口なのですが、コンサート、ライブ嫌いの私が三回も足を運ぶほど凝った演出で楽しませてもらいました。ただ「0の丘と∞の空」演奏時一斉に席を立ち踊り出すオタクっぽいファンが凄く怖かった……。
90年以降彼女の作風が変わって行った事でアルバムを購入しなくなってしまったのですが、良い機会だから今一度アーティストとしての遊佐未森を追いかけて見ようかな。
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コメント
「ハルモニオデオン」と聞いて瞬間遊佐未森が頭に浮かんだら、まさにそのアルバムのことでちょっぴりビックリ。つっても僕はバブシカさんほど聞き込んだわけではなくて、当時何でもかんでも気に入ったら借りて入れてた中の一枚という程度なのですが・・・(^^;)。
職場に結構彼女の歌が好きな子がいて、「アルバムもいいから聞け」と言われた気もしますね。当時は「地図をください」でしたっけ?がCMで使われた頃で、他にも数曲好きな曲があったけど、今ではパッと思い出せないのが悔しいです。
投稿: クリス | 2006/07/21 02:21
さすがクリスさん、何でも知ってますね。
「地図をください」が最初のヒット曲でしょうね。カップヌードルのCMだったかな?
それ以後はあまりヒットには恵まれていないのが悲しいところです。
最近だと洗剤やプリンのCMソングを歌っているようですよ。
投稿: バブシカ | 2006/07/21 02:42