
1988年にタイトーから発表されたビデオゲームです。
バブルボブルの作者としてお馴染みのMTJさんの作品であり、高解像モニターとトラックボールをあしらった専用筐体で出荷されました。タイトーとしても力を入れていた80年代最後の大作と呼ぶに相応しい作品と云えるでしょう。
MTJさんは当時ゲームデザイナーとして時の人であり、ビデオゲームと云うものを理解していた数少ないクリエーターでもありました。
氏は理路整然とした内容を考案するに長けたシステマイザーだったと思います。事実本作は企画として紙の上で見た場合、まず完璧と云えるほどの完成度と納得性を有しています。
しかし実際には一部のマニアに支持されたのみで、早々とゲームセンターから姿を消してしまいました。
素晴らしい企画であるのに何故? 今回は本作のゲームシステムを簡単におさらいしながらその原因を考えて見たいと思います。
●操作方法
自機であるメカドラゴンをトラックボールで操作し、攻撃ボタンを押す事で射程距離のある炎を吐き出します。
炎は無敵の強さを持っており、ボスと破壊不可能な敵を除き、全て一撃で倒せるようになっていますが、連続使用する事で画面下部のゲージが減少して行きます。それに併せて炎の射程距離も短くなる仕様です。
炎ゲージはボタンを放しトラックボールを動かす事で回復。ボールを激しく回す事で回復量も大きくなります。
自機はダメージ制が取られており、ダメージを受ける毎に尻尾の方から関節が赤くなって行きます。
七つある関節が全て赤く染まり次にダメージを受けると爆破。ストックが一つ減ります。
――トラックボールの操作性が良く調整されていて自由自在にドラゴンを動かす事が出来ます。そのアナログ特性を活かした炎ゲージ回復も良く考えられている部分です。
――炎は無類の強さを発揮しますが、ゲージを消費する事で攻撃出来ない時間を作りバランスが取られるようになっています。この回復バランスも適正ですね。
――ダメージが自機グラフィックのみで確認出来る本システムは素晴らしいの一言です。
他にもシステムとグラフィックがデジタル化されています。点数アイテムは丸、回復アイテムは三角と区別されており、倒せない敵は青い膜に被われています。これは一目見てシステムを知らしめる最良のアイディアと云えるでしょうね。個人的に本作の白眉だと感じる部分です。
システム上ここには全く不備が見られません。
●ストーリー
全5面エンド。ラウンド開始時に一枚テキストによる物語が表示されます。
プレイヤーの行動で物語は様々に分岐して行き、エンディングが100種類用意されています。
文章の中にヒントが隠されており、それに則った行動を取る事でストーリーが変化したり、特殊アイテムを入手出来たりします。
――それまでのアーケードゲームには有り得なかった本作のみの新機軸と云えます。
文章や内容が特に秀でている訳ではありませんが、このシステムは以後類を見ない斬新な輝きを放っています。
ただフラグ立てが曖昧でストーリーを狙って変化される融通性はありません。これは善し悪しの評価とは別次元の話ですね。
●マップ
ストーリーと同様に面マップも自動生成されます。これにより毎ゲーム、パターン化出来ないランダム性を入手しています。
当時、完全なるパターンゲームの善し悪しが論議されていました。ここは制作者やプレイヤーの嗜好によって変化する部分でしたので答えのない設問だったと云えるでしょう。保守的プレイヤーはパターンゲーム派、ランダム化を求めていたのは少数の前衛派プレイヤーと云う印象が残っています。
MTJさんやUPLの藤沢勉さんがランダム化を推進する最右翼だったとも思われます。このランダム化の話は長くなりそうですので次の機会に回します。
難易度についてもここで書かせていただきます。
本作はプレイ内容によってゲーム難度が変化して行きます。具体的にはノーダメージ、ノーミスか否かと云うスコア的なフラグです。
面クリア時ノーダメージで20万点、面通しノーミスで200万点のボーナスが加算されます。次面スタート時に難度が決定するのだと思うのですが、スコアが高いほどベラボーに難度が上がって行くのです。
具体的な難度の上昇は、マップの複雑さ破壊不能な敵の配置、敵キャラの打つショットの形態などに代表されます。
また或る点数以上を獲得していると最終面に隠しボスが出現するフィーチャーも仕組まれています。ここにも乱数要素があり1:4の確立でスコアに対応した敵サイバリオンが出現すると云うものとなっています。
――難易度に関しては良くもなく悪くもないと云った感じですね。普通に遊ぶ分には特に難しいゲームではなく、プレイ時間もやや短く感じるものの適正だとすればそう思えなくもありません。
ランダム要素を前面に打ち出した作品ですので、1日に何回か遊ぶと云うプレイスタイルを推奨しているものと思われます。
●問題点
ここまで非の打ち所が見あたらない本作のゲームシステムでしたが、一般に受け入れられずマニアにも人気が出なかった原因は判然としています。それはプレイアビリティが低かったからです。
操作性も良く難度も適正、なのに何故プレイアビリティが低いのか。全ては面マップの自動生成に起因しています。
下の画像を見ていただければ分かるように、自機の移動出来る範囲が狭すぎるのです。これが為にせっかくのトラックボールが持つアナログ特性が犠牲となっています。
実機をプレイされていた方でしたら分かると思うのですが、本作に於いてトラックボールを思いっ切り転がす状況はほぼ皆無でした。
あったとしても炎ゲージを回復する時だけに限られます。それにしても自機を地形にぶつけながら回復、または小さな円運動を素早く繰り返すだけに留まります。

広い空間がない為にダイナミックな移動を行えないのです。操作性が良いだけ逆にこれがプレイヤーにストレスを感じさせました。また地形にぶつかると自機が若干弾かれるシステムが取られています。これが狭い地形で思ったように移動出来ない弊害を生み苛立ちを感じさせました。
難度が上がると狭いところに破壊出来ない敵が配置される事が多くなります。そこを通り抜けようとする際に操作ミスしてしまうと、地形に弾かれる事で連続的にダメージを受けて死亡するケースも少なくありません。
本作の欠点はただこれだけなのです。ただこれだけなのにプレイアビリティが破綻してしまったのです。
自動生成される地形のブロック単位がもう少し大きければと残念に思われます。拡大縮小のグラフィック機能を持ったハードですので、それを利用した施策もあったのではないかとも感じます。そこにはグラフィックの破綻と云う別の罠が仕組まれていたとしてもです。
ゲームとして新しいシステムを多数搭載した作品でしたので、一般の人を巻き込むようなヒットは望めなかった事でしょう。しかしマニアにも受け入れられなかったプレイアビリティには大きな問題が残されています。
これだけ企画として斬新で紙の上での完成度が高い作品なのですから尚更です。マイナー作品に数えられてしまうだろうサイバリオンが評価される機会、研究に値する意味をも時代が奪ってしまったと云えます。
現在はプレステ2で発売されているタイトーメモリーズ上巻に収録されていますので、遊べる環境が一般に開放されています。
個人的な趣味、面白さ詰まらなさに関係なく、ゲームデザインを研究するには格好のテキストたり得る作品だと自信を以てお奨め出来ます。
ここからは余談です。サイバリオンが大好きだと云う方は読まないで下さい。気分を害する恐れがあります(ちょっと大袈裟)。
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