以前ハード別にお気に入り作品を紹介したいと書いたので、その手始めに私の思春期とともにあった任天堂ファミリーコンピュータから行ってみたいと思います。「100」とは書いていますが、1000本以上の膨大なソフト資産を持つファミコンですから、自分が遊んだ数だけでも200は下らない筈です。逆に以後書きたいと考えている「セガMARKⅢ」や「PCエンジン」などは100に届かないでしょうね。
今回は多少なりでも資料的な意味合いを持たせるべく、ソフトの発売順に添って進めてみます。本当ならばアーケードを含めた全ハードを絡ませる事で、ゲームシステムの変遷発展を俎上したいところではあるものの、それをやってしまうと労力的な問題から記事が完成しなくなる可能性が高いので今回は諦めます。
量からして分割記事にせざるを得ないのですが、ブログである都合上、表示順から年譜が狂ってしまう不備が出てしまいます。まあ、これも今は仕方がないとして諦めます。取り敢えず軽い読み物程度に思ってお付き合い下さいませ。
先ずはファミコンの発売された1983年からバラエティに富むソフトラインナップが出揃った1984年前半までを書く事にします。

●ドンキーコング
任天堂 1983年7月15日発売
当時の小中学生に於いて「ドンキーコング」はかなりのビッグタイトルでした。1981年に登場した原作であるアーケード版がロングヒットし絶賛稼働中であった事から、見た目もそのままに移植されたファミコン版はかなり魅力的だったと云えます。家庭用ゲーム機の専門誌などなかった時代だったので、夕食後家族団欒している時間帯に流れるテレビCMから口コミで広がって行ったと云う感じでしたね。本体の¥14800、ソフト一本¥3800(発売時)と云うのも玩具としては高額であり、親にねだろうが泣き付こうと簡単に買ってもらえる物でもありませんでした。コンピューターゲームがまだ文化として認められていなかった時代なので当然と云えば当然だったのでしょう。
実際私がファミコン本体を買ってもらえたのもこの1年後になります。それまでは裕福な友人の家で遊ばせてもらったり、飽き性の知人に本体を借りたりして過ごしていました。
また今では考え難いかも知れませんが、駄菓子屋で10分¥10みたいな商売も罷り通っていたものです。
友人の家で初めてプレイしたファミコン版「ドンキーコング」は本当に素晴らしい出来映えでした。好きな時に好きなだけ遊びまくっていたであろう友人は、原作の2面にあたる「50M」がないと生意気を云っていましたが、そんなものは些末に過ぎないと思えたほどです。まさしく家がゲームセンターになると云う夢想を提供されたのでした。ファミコンを買えばゲームセンターへ通う理由もなくなるのではとさえ考えました。
とは云うものの、遊んでいる内に「50M」がないのが気になって来ました。原作の縦画面がテレビ画面に合わせて圧縮されている事から来るプレイ感覚の違いも不満に結び付きました。原作の1面にあった「首吊り」と云うバグ技が通じないのには皆が皆文句を垂れていました。
結局ファミコンを買って貰えなかった多数派は、本物の「ドンキーコング」またはコピー基板である「クレイジーコング」を遊ぶ為にゲーセン通いを止める事もありませんでした。そして既に稼働していたアーケード版「ゼビウス」が少年たちの心を掴み始めていたのです。「ドンキーコング」は直きに過去の遺物として忘れ去られる運命にありました。
トータル売上88万本。

●ドンキーコングJr.
任天堂 1983年7月15日発売
「Jr.」もローンチタイトルだったのですが、いまいち印象が薄いと云わざるを得ません。現在の目で見れば秀逸なシステムを持った作品ではあるものの、こと面白さに関しては前作の「ドンキーコング」までには及んでいません。
自機キャラクターの移動が緩慢で操作がやや煩雑だった事が原因でしょうか。
続編物として捉えると、かなり研究されて作られている事が分かります。
ゲームの進行が右方向から上に登って行き、ゴールである左上に到着するシステム。シビアとまでは云えないものの万能とは取れない絶妙なジャンプシステム。軌道上を移動している敵とそのランダム処理。リスクを伴うがテクニカルな地形ショートカット。固定攻撃アイテムの利便性など。これら全てが「ドンキーコング」を踏襲している部分ですね。
ゲーム性も類似している事から詰まらなく感じる訳でもありません。ただキャラクターが大きい為にプレイフィールドが狭くなり、前作にあった冒険心を感じられなくなっているのではないかと思います。近くにあるゴールなのになかなか辿り着けないと云うジレンマも内包されています。キャラクターが大きくなった事でダイナミズムが欠如したとも取れるでしょう。
ツタやロープ周りの移動システムなどは斬新で素晴らしいものの、重々しいキャラ操作性が減点を余儀なくしてしまった残念な作品だとも思います。
それにしても続編の自機キャラクターが敵ボスの息子と云うのは面白い発想ですね。無理矢理かも知れませんが夏目漱石の著作に例えると、始まりのドンキーが「三四郎」、発想の転換でJr.が「それから」、微妙なドンキー3が「門」みたいな感じでしょうか。

●ポパイ
任天堂 1983年7月15日発売
ファミコン本体と同時販売された3作品はいずれもアーケードの移植作品でした。その中で最もマイナーなのがこの「ポパイ」ですね。ゲーセンで見た事はあるけれど遊んだ事のない……または遊ぶ気がしなかったゲームでもあります。
しかしやって見れば良好な操作性と牧歌的なゲーム性でなかなか楽しませてくれます。でも殆ど印象にないと云う事はあまり遊ばなかったんだろうなあ。

●マリオブラザーズ
任天堂 1983年9月9日発売
「ゼビウス」が出るまで最も遊んだファミコンソフトが本作でした。二人同時プレイを世に知らしめたゲームの第一人者としても有名ですね。私の場合は弟と日々「殺し合い」プレイに勤しんでいました。放課後にはゲーセンで同級生とアーケード版を「協力」プレイしていたのでマリオ漬けだったと云っても過言ではありません。
ファミコン版は原作であるアーケード版に較べると、敵キャラクター「つらら」が削除されている、ボーナスステージの種類が少ない、難易度がかなり低いなど物足りない部分があったものの素晴らしい作品として光り輝いています。
一人で遊んでも充分に楽しい内容でカウンターストップするまで遊び続けるのが日課ともなっていました。今でも大好きな作品です。
トータル売上163万本。

●ベースボール
任天堂 1983年12月7日発売
ファミコン初のスポーツ物です。ファミスタ以前の野球ゲームなので、現在に遊ぶと全く面白さが見出だせません。自分で選手を操作していると云う感じが希薄だからでしょうね。当時はかなり楽しめたのですが……。
とは云うもののトータル売上235万本。みんな野球ゲームに飢えていたのです。

●テニス
任天堂 1984年1月14日発売
「ベースボール」と違ってこちらは今でもそこそこ楽しめます。操作するのが選手一人で直接的なレスポンスを感じられるからでしょう。ここから考えるに、スポーツゲームの善し悪しとは実際のルールを如何に上手くシステムに落とし込めるか、そうして恰も自分がプレイしているかの如く直接的な操作を体感出来るかに掛かっているのではないのかなと思います。これが最も成功しているのは「Wiiスポーツ」のテニスですね。
トータル売上156万本。

●ピンボール
任天堂 1984年2月2日発売
スポーツ物の次はテーブル物です。ユーザーの裾野を広げたいとする任天堂の戦略が見えて来ます。実際には「ポパイ」の後に「五目ならべ」「麻雀」が発売されており、「マリオブラザーズ」の後には「ポパイの英語遊び」「ドンキーコングJRの算数遊び」と云う軽い教育ソフトも出ています。お父さんお母さん個々に購入を促す建前までも用意してくれているとは素晴らしき哉任天堂ですね。
「ピンボール」もラインナップを揃えると云う意味合いの強いソフトだとは思うのですが、これがまたどうして素晴らしい出来映えを誇っています。
上下2画面の切り替えスクロール。ボーナス面の画面切り替えと変わった体裁を持っています。役は最低限しかなくやや単調を提供するも、十字キーとボタンを個別フリッパーに割り当てた操作性が抜群で、ボールの挙動も充分にリアル。なんとはなしに延々と遊び続けていられる作品でした。

●ダックハント
任天堂 1984年4月21日発売
別売りオプションである「光線銃」の専用ソフト第二弾です。第一弾は2月に発売された「ワイルドガンマン」。第三弾は6月の「ホーガンズアレイ」となっています。この光線銃シリーズも初期のファミコンを彩る名作ソフトと云えるでしょう。企画は横井軍平さんだったと思います。
いずれも任天堂らしく操作性に優れた作品となっていてストレスを感じさせないゲームに仕上がっています。独りで黙々と遊ぶ類のものではなく、家族団欒の中にあってファミコンが持つコミュニケーションツールとしての底力を知らしめる役割を担っていたとも考えられます。コンピューターゲームに理解がなく興味も見出だせずにいたお母さんお婆ちゃんでも見ているだけで楽しめる明解さを所持していたのではないでしょうか。
ゲーム内容よりも80年代の温かいお茶の間を思い出させてくれる懐かしい作品です。

●ゴルフ
任天堂 1984年5月1日
「五目ならべ」「麻雀」に次ぐおっさんキラーの大本命ソフトです。
私は当時中学生でゴルフ自体に興味はありませんでしたが、本作の面白さに魅せられて以後テレビ中継まで観戦するようになりました。
1画面に収められた情報をもとに飛距離を計算する知的攻略要素、ショットの強弱を決定するアクション要素が高みで融合されたスポーツゲームの傑作ですね。これに風と云うランダム要素が加わる事で長い間飽和感を覚える事なく楽しめました。
ゲージを移動するカーソルのタイミングでショットの強弱、フック、スライスを打ち分ける操作システムはひとつの大発明と云えるでしょう。
後年販売本数が246万本と云うのを雑誌で見て驚きました。おっさんパワー侮れませんね。

●ドンキーコング3
任天堂 1984年7月4日発売
ドンキーコングシリーズで最もマイナーな作品でしょうね。内容はナムコ社の「キング&バルーン」に類似した固定画面シューティング物に変わっています。
アイディアとして面白い部分を持っている作品ではあるのですが、ゲームとしてあまり楽しくないと云う印象です。
これには原因理由があって、面クリア条件が複数ある事が大きいと思います。
ドンキーコングを撃ち続けて画面上部まで追い遣る。一定数のザコ敵を倒す……このどちらか一方でも満たせば面クリア出来るのですが、プレイヤーからすると曖昧なクリア条件に見えてしまうんですよね。
また、ドンキーを集中砲火するとシューティングとして面白くないし、ザコ掃討は本作のシステムからすると味気ない……。そして何よりもシューティングゲームとしての爽快感がないのが致命傷。
これは画面上に存在するザコが少ない事と効果音が適切ではないからでしょうね。効果音に関して云えば、自機の武器ショットが殺虫スプレーと云う設定に縛られて、万人が持つイメージに従順と化してしまったからの失敗と云えるでしょう。泡みたいなショットで虫を「シュッシュッ」と倒しても面白くなる訳がありません。効果音をグラディウスのそれに差し替えてみたらもう少し面白くなりそうだと思えませんか?
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